「なあ、名前。」
「なあに?天火。」
「もし、俺の身体が動かなくなったりしても、お前は俺と一緒にいたいって思うか?」
「は?」
え、急に何?という風に天火を見たら案外真剣な表情(カオ)で。
「……うーん。天火が動けなくなっても天火は天火でしょう?」
だったら私はそばにいるよ。
そう言うと一瞬瞳を揺らし、泣きそうな顔でありがとう、と言った。
思えば、あなたは全部知っていてこの質問をしたのだろうと、今なら分かる。
大蛇が死んで、この滋賀も平和になった。
みんなが笑顔で暮らせるようになった。
でも、どうしてだろう。
泣きたくなるのは。
あの日───大蛇が死んだ日───、思ってしまった。
彼、天火はいつか、私をおいていってしまうのではないかと。
□ ■ □
「そっか……、ありがとう。天火にまた来るって伝えてくれる?」
「………はい。伝えます。……すいません、名前さん。」
「ううん。私は大丈夫!じゃあね!空丸!」
俺ですら無理やり笑っていると分かる笑顔。
何回あの笑顔を見ただろうか。
「おい馬鹿兄貴。」
「…んー……。なんだ…?」
「なんだ、じゃねーよ。いいのかよ、名前さん。」
「……これで、いい。」
苦しそうな顔で言う兄貴。
なんでだよ、
「なんで、ぶつかってやんねーんだよ。名前さん、毎日毎日兄貴に逢いに来てくれて!毎日毎日逢えないって言われても笑ってんだぞ!?それでもいつも瞳は揺れてて見てるこっちが苦しくなるぐらい泣くの我慢してんだよ!分かるだろ、兄貴なら!」
くしゃり、と兄貴の顔が歪んだ気がしたけど、止められない。
「好きになった女なら自分の手でしっかり守れよ!」
俺の言葉を聞いていたかは定かではないけれど、ものすごい勢いで部屋を飛び出していった。
「………ったく。」
ほんとに世話のかかる兄貴だ。
□ ■ □
これでもう何日天火に逢えていないんだろう。
なんでなの、どうして逢ってくれないの。
「うー……っ。」
ポロリと涙が溢れた時に思いきり左手を掴まれた。
驚いて振り返ってみるとそこには息を切らした天火がいた。
「天、火……。」
「話がある。」
もう、なんなの。
悪いことが頭をよぎる。
私、振られちゃうのかな?
そう思ったらまた涙が溢れてきた。
「な、なんで泣くんだよ!?」
目に見えて慌てだした天火。
だって、
「だって、別れようって、言いに、来たんでしょ?」
ぐすり、と鼻を啜りながら尋ねると固まった天火。
「天火は酷いよ。」
ポツリと呟いた。
「だって、私どんな天火も好きって言ったのに。なんで急に避けたの?私のこと嫌いになったの?それならそう言えばいいのに。なんで、なんで避けたりなんか────んんっ!」
最後まで伝えることが出来ず、言葉は天火の口づけによって遮られた。
「違うんだよ、名前。」
唇が触れる距離で囁かれた。
「怖かったんだ、お前が離れていくのが。お前が、違うところに行くのが。…でも、もうやめる。」
そう言って強い眼差しでしっかりと目があった。
すいこまれそうに、なる。
「俺の身体はもう自由には動かねえ。それでもお前が俺を選ぶなら、もう二度と泣かせねえ。」
「………ばかなの?天火は。」
「………は?」
「さっきの私の言葉、聞いてた?私が天火から離れるなんて、あり得ないよ。」
天火のそばが一番安心するんだから。
自然のままのあなたが好き
(だから、あなたのすべてをちょうだい?)
4/5